「ごめん。なんか、見苦しいところ見せちゃったね」

けど、それは海斗さんの深い溜め息によって破られ、私もそこではたと我に返る。

「あの人が、楓さんなんですね。ちょっと……て言うか、かなり衝撃的な人でしたけど」

今でも脳裏に焼き付いて離れない彼女とのキスに、私は高鳴る鼓動を抑えながら、おずおずと訊ねる。

「根はいい子なんだ。けど、海外育ちのせいか人前を気にしないところが難点で……」

そう答えると、海斗さんは眉間に皺を寄せながら、再び大きな溜め息を吐いた。


「……楓」

すると、今の今までずっと無言だった恵梨香から、突如漏れだした消え入りそうな声。

「海斗さん。今の人って、海斗さんの何ですか?」

それから、弱々しく尋ねる恵梨香の瞳は揺れていて、その姿に何だか私まで胸が痛み出してくる。

「楓は、僕の元カノだよ」

そんな恵梨香の心境を知ってか、知らずか。

海斗さんは苦笑いを浮かべながら、バツが悪そうにそう答えたのだった。