「んっ……」

柔らかな唇が触れ合う音と、ほろりと漏れる吐息混じりの甘い声。

突然の出来事に状況が全く飲み込めず、呆気にとられる私達。

しかし、そんなことにはお構いなしと、私達の前で堂々と海斗さんの首元にからみつく一人の女性。

そして、細くて長いブロンドの髪を揺らしながら、満足気に重ねていた唇をゆっくりと離した。


「……あのさ。ここ、職場なんだけど?」

固まる私達とは裏腹に、予期せぬタイミングでキスされたのにも関わらず、妙に落ち着いた様子の海斗さん。

「だって、暫く私の好きにしていいって言ったのは、あなたの方じゃない」

そんな海斗さんを、高揚とした表情で見つめ返す金髪の女性。 

一方、二人のやり取りを、相変わらず微動だにせずただ眺め続ける私と恵梨香。


ガタッ!


すると、不意に脇から何かが豪快に倒れる音が響き、お陰で意識が一気に現実へと引き戻される。

そして、私は何事かと勢い良く振り向くと、そこには椅子から見事に転げ落ちた恵梨香の姿があった。


「え、恵梨香大丈夫!?」

私はすかさず倒れた椅子を起こし、床に倒れ込んだまま硬直する恵梨香に手を差し伸べるも、先程のキスが相当ショックだったのか。

一向に呆然としたまま焦点が定まっていない。

「ごめんね。びっくりさせちゃって」

これは皮肉なのか、それとも天然なのかよく分からないけど、金髪の女性は身をかがめて恵梨香の顔を覗き込む。


なんだろう。

この引き込まれていくような感覚は。


失礼だとは分かっているのに、視線を反らしたくてもつい目が釘付けになってしまう。

それ程に、目の前の人はとても艶やかで、息を呑むくらい美しい。

堀の深い綺麗な顔立ちと、作り物かと思うくらいのフサフサな長い睫毛と透き通った大きな青い瞳。

綺麗なラインを描く日本人離れの高い鼻。

その上、恐らく八頭身はあろう抜群のプロポーションは、まるで海外の着せ替え人形を連想させる。

そして、背中まで伸びたシルクのように光り輝く細いブロンドの髪と、抜けるような白い肌。


兎に角、今までテレビや広告でしかお目にかかったことがないハリウッドスターみたいな美女が、突然私達の前に現れたのだ。