「遅いっ!三十分以上の遅刻はこれで何度目だ?」

重厚なガラス扉を開けた途端、眉間に皺を寄せながら仁王立ちで待ち構えていた綾さん。

「すみません。以後気をつけます」

それに対し、海斗さんは言い訳することなく素直に頭を下げた。

課題をしていただけなのに、こんなにも怒られてしまうものなのかと。

呆然としながら社会の厳しさを痛感していると、不意に綾さんと視線がかち合い、私はピンと背筋を伸ばした。


「よっ、加代久しぶりだな。元気にしてるか?」

「お、お久しぶりです!そ、その節はどうもありがとうございました」

突然話の矛先がこちらに切り替わり、油断していた私は慌てて深くお辞儀をする。

「だからそんなに固くなるなって。それはそうと、この前より少し雰囲気が変わったんじゃないのか?」

すると、思いかげない綾さんの指摘に、目を点にして一瞬動きが止まった。

「それは髪型が変わったからなんじゃ……」

確かにあの頃と比べれば、海斗さんのお陰で大分雰囲気は変わったと思うけど……。

「いや、外見じゃなくて内面的なもので」


しかし、返ってきたのはこれまた予想に反した言葉で。

何がどう変わったのかさっぱり分からない私は、終始頭上にクエスチョンマークを浮かび上がらせる。