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「はあ~……」



グランドと体育館に挟まれた人気のない洗い場で、私は泣き顔を誤魔化す為に顔を洗う。

初夏にさしかかる外気のお陰で、水温は生温かったけど、少しだけさっぱりとした気持ちになり、気付けば涙は止まっていた。

持っていたハンカチで水気を拭き取ると、私は胸ポケットから掌サイズの鏡を取り出し目元に近付けてみる。

……うん、ダメだ。まだ赤い。

やっぱり顔を洗っただけでは全く誤魔化すことは出来ず、私は諦めたように小さく肩を落とすと、パタリと鏡の蓋を閉めた。


今でもはっきりと浮かんでくる俊君の勇姿。

その姿は心に深く刻み込まれ、諦めない強さを私に見せてくれた。

そんな俊君に大きく触発された私は、その感動と勝利の言葉を早く伝えたくて、未だ冷めることのない賑やかなグラウンドへと視線を向ける。

あの時慌てて飛び出してしまったせいで、まだ俊君とは顔を合わせていない。

もしかしたら今頃女子生徒に囲まれて、話すチャンスを逃してしまうかもしれない。

そんな不安に駆られた私は、急いで鏡をポケットにしまい、その場から離れようと足を踏み出す。