「それはそうと。お前いつまで俺のこと苗字で呼ぶんだよ?」

すると、突然声色が変わり、何やらとても不機嫌そうな表情で指摘されたことに、私の心臓はまたもや大きく跳ね上がる。

「ごめんね。昔の呼び名で呼ぶの少し恥ずかしくて……。あれから大分年数経ってるし……」


出来ることなら私も是非そう呼びたい。

しかし、長いことブランクがあったせいで、“岡田君”が定着してしまった今となっては、戻すのに少しの抵抗感があって。

私はバツが悪くなり、視線を明後日の方向に向ける。


「まあ……確かに。俺達十年ぶりだもんな」

そう言うと、岡田君はこれ以上責めることはせず、小さく溜め息を吐いてから、思い馳せるように青い空を仰ぐ。


……そう。

本当に十年という長い年月。

これだけの月日が経てば、色々と変わってしまう。

沢山の事が私に起こったように、岡田君にも色々な出来事があっただろう。

けど、それを私は何も知らない。

私が知っているのは、ぼんやりとした記憶に残る、幼い岡田君の姿だけ。

そして、引っ越してからの岡田君をずっと見続けていたのは、あの紺野さんだという。

そう思うと、きりきりと胸が痛み出すけど、今はこの一時に集中したいから、余計な雑念は振り払った。