「ふわぁ～……」

いつもよりも大きな欠伸に、思わず涙目になる。

このまま何も考えていないと、本当に歩きながら寝てしまいそうで、私はなんとか目を覚ます為、音楽でも聴こうと鞄からイヤフォン取り出す。

「加代？」

すると、後方から聞き覚えのある声が響き、思わず肩が小さく震えた。

まさかとは思い、恐る恐る後ろを振り返ると、そこには黒色エナメルバックを肩に掛けた岡田君がいて。
不意打ちの偶然に、これまでぼんやりとしていた意識が一気に覚醒する。

「お、おはよう岡田君。随分早い登校だね」

兎に角先ずは挨拶をと。
激しく動揺しているせいで、上手く口が回らないながらも、何とか自然体を試みて笑顔をつくる。

「俺はいつもの朝練だけど、加代は何でこんな早いんだ？」

「私は文化祭の衣装作り。なんか、勝手に衣装班のリーダーにされたの」

きょとんとした表情で尋ねて来た岡田君の質問に、私は苦笑いで答えると、「ああ」と短い返事をされ、小さく笑われた。

「加代は昔から器用だったもんな」

そして、何気なく言われた一言に私は感動で胸が熱くなる。

あれから十年近くは経ったのに、岡田君がまだ昔のことを覚えてくれたことが嬉しくて。

これだけで、今日一日幸せな気持ちでいっぱいになる。