広場の入口に数台設置された自販機の前で立ち止まり、私は真剣に飲み物を選ぶ。

甘い系でもいいけど、これから歩いて水分補給をするならお茶か水の方がいいかなと。

その中でもどのメーカーの物にしようかと、悩んでいた時だった。


ふと、すぐ隣りで人の気配がして、未だ決まらない私は先に譲ろうと振り向く。


そして、次の瞬間、信じられない光景に自分の目を疑った。


ついに私は白昼夢でも見てしまったのか。


実はここまでの出来事も全部夢だったのではないかと。

一瞬そんな考えが過ぎったけど、このはっきりと研ぎ澄まされた感覚が、これは現実なんだと教えてくれる。


だけど、私はその現実をなかなか受け入れる事が出来なかった。


それは向こうも同じみたいで、私と目が合った瞬間、まるで時が止まったようにピクリとも動かない。



「……加代?」


それから暫く経ち、無理やり絞り出したような掠れた声で私の名前を呼ぶ人物は、やっぱり紛れもなくその人で。

眼鏡を外している為、視界がぼやけてはいるけど、この距離ならはっきりと分かる。


けど、それでも信じられなかった。


だって、こんなこと、ありえないから。


まさか、こんな場所にいるなんて。


まさか、岡田君が私の目の前に立っているなんて。


そんな偶然は絶対に有り得ないと思ってしまった。