「あ、あの。私は一体どうすれば……」
とりあえず、スタッフの指示に従い、所定の位置に立たされた後、今回の撮影の要なのか。
小さなガラス瓶に入った真新しい香水を手に持たされ、私は段々と不安が募る中、恐る恐る隣に立つ海斗さんに尋ねる。
「加代ちゃんはそのまま立っているだけでいいよ。あとは僕が演出するから」
要求されたことは至って簡単なので安心したけど、一体どんな内容なのか。
そう疑問に思っていたところ、丁度撮影の準備が完了したようで、監督の合図が入った瞬間、海斗さんは突然私の顎を引いてきた。
そこで、私の思考回路が停止する。
ついでに体も石像のように固まってしまう。
それは、私の視界一杯に海斗さんの綺麗な顔が映り込んできて、後少しでキスされそうになる手前。
そこで彼の動きも止まり、後に続いて複数のフラッシュ音が鳴り響いた。
今はっきりと感じるのは、肌に触れる海斗さんの温もりと、唇から感じる彼の熱い吐息だけ。
まるで時が止まったような感覚の中、うるさいくらい鼓動が身体中に響き渡る。
お互いの鼻がくっつく程近すぎる距離に、思わず瞼を閉じてしまいたい衝動が走ったけど、あまりにも艶っぽい表情に魅せられて、私の目は釘付けとなってしまった。
その瞳は本当に息を呑むほど綺麗で透き通っていて、吸い込まれそうで。
甘い海斗さんの魅力に、段々と酔いしれていく。
……どうしよう。
私、さっきからまともに呼吸出来てない。
カメラマンの声や、シャッターをきる音など。
もう回りの雑音なんて一切耳に入らず。
私の全神経は、全て海斗さんに向けられていた。