「それじゃあ、ここに座ってもらってもいい?」

そして、言われるがまま海斗さんの前にある椅子に腰を掛けると、そこから流れるような手つきでメイクが始まった。

と言っても、日々のスキンケアのお陰か。
肌は申し分なく綺麗で、まつ毛も長いと褒められたので、そこまで大々的なことはせず、ほんの少し手を加えるだけとのこと。

時折、細かい作業に入る時、海斗さんの綺麗な顔が間近に迫り、息遣いを肌で感じるほどの至近距離につい鼓動が高鳴ってしまう。

真剣な海斗さんに対し、変に意識してはダメだと自分を戒めようとするけど、そう簡単に気持ちのコントロールなんて出来るはずもなく。

私は気を紛らす為に何か話題はないかと、思考を巡らしてみる。


「そういえば、海斗さんはよく人にメイクしたり、洋服をコーディネートしたりするんですか?」

すると、無数に並べられたコスメ用品を迷うことなく手に取る動作を見て、ふとそんな疑問が頭に浮んだ。

「たまにね。一応色々と資格は持ってるから実際現場で手伝ったりはしてるし、あと撮影用の服を自分で選んだりしてるかな」

「えっ?じゃあ雑誌に載っていた服もですか?」

何気なく聞いてみたら、予想以上に精力的に活動していることを知り、私は驚きのあまりつい顔を上げてしまう。

「ダメだよ動いちゃ。まあ、勿論全部が全部ってわけじゃないけどね」

そう言うと海斗さんは口元を緩ませて、私の顔を正面に向き直させた。


自分でコーディネートしているということは、この前雑誌に載っていた服も、もしかしたら海斗さんが選んだものかもしれない。

どの服も皆んな海斗さんの魅力を引き立てて、凄く素敵だった。

それ程のセンスを持ち合わせているということは、あの時男性が言ってたことも頷ける気がする。