次はメイクということなので、私は眼鏡を外したまま恐る恐る扉を開いて中に入る。
ここは控室なのか。
大きな鏡の前に椅子が数席設置されている脇で海斗さんは様々なメイク道具を広げていた。
「あ、加代ちゃんお疲れ様。どうだっ……」
私の存在に気付いた海斗さんは、こちらに振り向いた瞬間、突然目を大きく見開いてその場で固まる。
それから、まるで時が止まったのかと錯覚してしまう程、海斗さんは微動だにせずこちらを凝視してくるので、私は狼狽えてしまった。
視界がぼやけているので、海斗さんがどんな表情をしているのかよく分からないけど、あまりにも動かない様子に段々と不安になってくる。
「あ、あの……。海斗さん?」
すると、私の呼び掛けでふと我に返った海斗さんは直ぐ笑顔になると、私の元へと近寄ってきた。
「ごめんね。あまりにも変わったから言葉がなかなか出て来なくて。加代ちゃん、すごい可愛くて綺麗だよ」
それからいつもの柔らかい表情で、聞きなれない言葉をストレートに投げられ、私は嬉しいやら恥ずかしいやらで、つい視線を足下へと落としてしまう。