「綾さん、ここ禁煙」

「ああ……そうだったな」


視線を向けると、そこに立っているのは煙草をくわえたスーツスカート姿のとてもスレンダーな女性。

そのスタイルの良さは海斗さんに負けないくらいで、細くて長い足を組みながら、綾さんと呼ばれた女性はこちらには見向きもせず、ひたすら書類を眺めていた。


「そういえば、この前のCMのオファー断っといたぞ。……まったく、ギャラ結構よかったのに……相変わらずお前は事務所に尽くさない奴だな」

それから、咥えていたタバコを脇にあった灰皿で押しつぶすと、不服そうな目を海斗さんに向ける。

「それを分かってて僕をスカウトしたんでしょ」

しかし、そんな彼女の非難をものともせず、充満する煙を手で払いながら、海斗さんは呆れたように深い溜息をはいた。