ふいっと目を逸らされ、アリスはしゅんとする。
 前の夫であるクリスは、お気に入りの妃──ルシアによくドレスをプレゼントしていた。また、アリスの好きな小説でも男性から女性にドレスを贈る場面はよく出てくる。

 ウィルフリッドからすればアリスはただの〝妃役〟であり〝愛する妃〟ではないことはわかっている。けれど、一度くらい夫からドレスを選んでもらうという体験を自分もしてみたいと思ったのだ。

 それに、王妃が着るドレスは普段使いのものでもそれなりに値が張る。全部買ってお金を浪費するのは本意ではない。


 そのとき、椅子に腰かけていたウィルフリッドがすっくと立ちあがった。

「これはどうだろう?」

 ウィルフリッドが指さしたのは、部屋のはじ──カーテンの陰にひっそりと置かれた水色のドレスだった。銀糸で刺繍が施され、襟元や袖、裾部分に白いファーが付いている斬新なデザインだった。

「あ。申し訳ございません。こちらはまだ試作品でして──」

 仕立て屋は慌てたようにそれを片付けようとする。しかし、アリスは目が釘付けになった。

(可愛い!)

 水色の生地とふわふわした白のファーが相まって、とても可愛らしい印象を受けた。

「わたくし、それがいいです」

 アリスはすかさず仕立て屋に伝える。