アリスは暖炉近くに洗顔用のお湯を準備してもらい、そこで顔を洗った。一方のエマはクローゼットの前に立ち、今日アリスが着る衣装を物色している。

「アリス様。念のため確認させていただきますが、今お持ちの冬服はこちらが全てですか?」
「ええ、そうよ」

 アリスは頷く。

「それがどうかしたの?」

 クローゼットの前に立ったまま考え込んでいるような様子のエマに、アリスは不安になる。

 システィス国への輿入れに際し、アリスは既に持っている衣装に加えて、パーティー用ドレスから普段使い用のドレスまで合計十着の冬物のドレスを新調してきた。十分な量だと思っていたが、足りなかっただろうか。

「こちらのドレスでは、システィス国の越冬は厳しいかもしれません。コートも心許ないですので、何着か新調したほうがよろしいかと」
「そうなのね。じゃあ、陛下にご相談してみようかしら」

 妃達の立場に応じて給料のように自由になるお金が支給されていたビクルス国のハーレムと違い、システィス国ではウィルフリッドとアリス二人分の生活費が『王家の生活費』として予算化されている。
 無駄遣いをするつもりはないが、買い物をするならウィルフリッドに一言伝えてからのほうがいいと思ったのだ。

「それがよろしいかと。今日はこちらにいたしましょう」

 エマが手に取ったのは、アリスが持っているドレスの中でも一番生地が厚く暖かいものだった。

「ええ、ありがとう」

 アリスが頷くと、エマは手際よくアリスにそのドレスを着せてゆく。着替えたアリスはその足で朝食の場へと向かった。廊下は暖房が付いていないので、部屋よりもずっと気温が低い。

(寒っ!)

 思わずぶるりと体を震わせた。