一日の気温が一番低くなる時間。それは、朝である。

「うう、もうお布団の中で暮らしたい」
「あら? では、お食事をこちらに運びましょうか?」

 ぽつりと零した言葉を拾ったエマがアリスに問いかける。

「ううん、平気。そんなことしたら、一生ベッドから出られなくなりそう。あっという間に堕落王妃のできあがりよ。陛下にも怒られてしまうわ」

 肩を竦めて首を横に振るアリスを見て、エマはくすくすと笑う。

 アリスは意を決してベッドから抜け出すと、窓から外を見る。空はどんよりとした厚い雲で覆われており、余計寒さを感じる。

「今日は雪が舞うかもしれませんね」
「雪? もう?」
「はい。システィス国の冬は長いですから。真冬なんて、本当に寒いですよ。濡れた布など、外に持っていったら一瞬で凍り付いてしまいます」
「まあ、そんなに」

 言葉では〝寒い〟と何回も聞いているものの、実際に体験したことがないのでなかなか想像がつかない。けれど、話す人全員が寒いというのだから、本当にとても寒いのだろう。

「今でも暖炉を使っているのに。わたくし、冬を無事に乗り越えられるかしら?」

 部屋に設置されている暖炉は、朝エマが火をつけてくれたのでパチパチと音を鳴らして燃えていた。段々と室温が上がり、過ごしやすい温度になっていく。