「唇の色が悪い」
「え? まあ、本当だわ。気付かずに申し訳ありません!」

 横にいたエマがアリスの顔を覗き込み、慌てたように謝罪する。

「ううん、気にしないで。わたくしは寒さに弱いみたい」

 アリスは慌ててエマをフォローする。そもそも、アリス以外は寒そうにしている人などいないのだからアリスが異端なのだろう。
 ウィルフリッドはアリスに何か言いたげな顔をしたが、口を閉じてエマのほうに視線を移す。

「エマ。部屋の暖炉の火を強くしておけ」
「はい。かしこまりました」

 エマはウィルフレッドに向けて頭を下げる。

 ウィルフリッドはふたりを一瞥すると、すたすたと立ち去って行った。