(あら?)

 ふと、廊下の前方から見覚えのある人が歩いてくるのが見えた。長身で逞しい体躯、髪は輝くシルバーブロンドだ。

(陛下だわ)

 アリスが立ち止まり頭を下げると、ウィルフレッドはすぐに彼女に気付いた。

「どこかに行ってきたのか?」
「はい。病院と福祉施設の視察に」
「そうか。ご苦労だった」

 ウィルフレッドはアリスの顔を見る。わずかに、彼の眉間にしわが寄る。

(どうかされたのかしら?)

 何か気に障ることをしてしまっただろうか。
 思い当たることがなくアリスが目を瞬かせると、ウィルフリッドは突然アリスの手を取る。

「やっぱり」

 ウィルフレッドははあっと息を吐き、指先でアリスの手の甲を撫でる。その仕草にドキッとした。

「あ、あの……」
「冷え切っているではないか」
「あ……」

 アリスは慌てて手を引こうとする。しかし、ウィルフレッドにしっかりと握られてそれは叶わなかった。