「では、今日はお互いに好きな食べ物のお話をしましょう」
「食べ物?」
「はい。まずはわたくしからお話ししますね。一番の好物はビーフシチューで──」

 アリスはにこにこしながら話し出す。
 ウィルフリッドは呆気にとられた。何を話すのかと思えば、本当にただのお喋りのようだ。

「陛下は何がお好きですか?」

 アリスは一通り話し終えると、屈託のない笑顔をウィルフリッドに向ける。

(どういうつもりだ?)

 彼女の意図が掴めず、困惑する。

 ウィルフリッドは今まで、特に信頼した人間を除き、人を寄せ付けないようにしていた。父と兄を殺したとして冷酷王と呼ばれる自分と損得勘定抜きに親しくなりたい人間などいないと思っていたし、誰かと仲よしごっこをするつもりもなかったからだ。

 けれど、アリスは損得ではなく笑顔でウィルフリッドに接してくれていることが、彼女の態度からわかった。

(彼女は不思議な女性だな)

 突き放しても笑顔でウィルフリッドに寄ってきて笑顔を向け、役に立ちたいと努力した結果が実ると子供のように喜ぶ。表情がころころ変わり、目が離せなくなる。

 それに──。

『あなたのことを、もっと知りたいです』

 アリスが先ほど言った言葉を思い返す。そんなことを言われたのは、生まれて初めてかもしれない。

 政治的駆け引きのないただのお喋りに興じたのは本当に久しぶりで、思いのほか悪くなかった。