エマの話が全て真実だとすれば、暴風雪が発生した原因は間違いなく異能の力だろう。そして、ウィルフリッドは水の精霊の加護を得ている。そして、アリスの知る限り、現在異能を持っている王族はウィルフリッドただひとりだけだ。

「……だから、陛下がふたりを殺したって言われているのね」
「はい。証拠は何もありませんが、当時、多くの貴族がそれを疑っておりました。陛下が即位されることには反対される貴族も多かったのですが、ノートン公爵が後見人として陛下を補佐することで、皆を納得させたのです」
「ノートン公爵が」

 ノートン公爵はウィルフリッドの叔父で、前国王の弟だ。今も宰相として、政界に強い影響力を持っている。

「そんなことがあったのね……」

 思った以上に衝撃的な話だった。アリスは背もたれに背を預けると、天井を仰ぐ。

 もしアリスがウィルフリッドのことを知らない状態で今の話を聞いたら、間違いなく彼が意図的に父と兄を殺した犯人であると判断しただろう。けれど、この数カ月間ウィルフリッドを近くで見てきたアリスにはどうしても納得できなかった。

 今日の昼間の、ウィルフリッドの呟きを思い出す。

『俺は本来、国王になるべき器ではなかった。俺の血など、ここで絶えてしまえばいい』

 彼は確かにそう呟いた。その姿はどこか自嘲的で、どうしようもない運命に諦めているような雰囲気さえ感じられた。

(多分、陛下はやっていないわ)

 何の証拠もないけれど、アリスはそう思った。

(でも、それならどうしてそんなことに?)

 何とも言えない嫌な予感がして、アリスはぶるっと身震いをした。