「アリス様は、陛下の異能が水や氷を操ることであるのはご存じですか?」
「ええ、もちろんよ」

 アリスは頷く。

 システィス国の王族には、稀に異能を持ち合わせた者が誕生する。異能の種類は人それぞれだが、火・水・土・風・雷いずれかの精霊の加護を得ることで発現しているため、そのどれかに紐づいている。
 ウィルフリッドの場合は水の精霊の加護を受けており、水や氷を操ることができる。

「あれは、もう初夏になろうというような季節でした。陛下はふたりの王子を連れて、領地の視察に出掛けられたのです。視察自体は滞りなく終了したのですが──」

 エマはそこで言葉を詰まらせる。

「帰りの道中で陛下のご一行が暴風雪に襲われて、身動きが取れなくなってしまったのです」
「暴風雪? 初夏に?」

 アリスはすぐに強い違和感を覚えた。

 システィス国は確かに寒く、冬場は深い雪に包まれる。しかし、夏は半袖で快適に過ごせる程度まで気温が上がり、雪が降ることなどない。初夏になるとかなり気温もあがっているはずだから、稀に冷え込む日があったとしても暴風雪になることはないはずだ。

「目撃された方によりますと、陛下たちご一行がいらした場所だけが暴風雪になっていたのです。そんな異常な気象は、通常考えられません」
「……異能を使ったってこと?」

 背中につうっと汗が伝うのを感じた。