現システィス国王であるウィルフリッド=ハーストは、システィス国王夫妻の次男として生を受けた。三つ上に王太子である兄、ひとつ上に王女である姉がおり、末っ子だ。

「陛下は元々、甘えん坊な子だったとアメリア様からは聞いたことがあります。亡き王太子殿下やアメリア様の後ろをちょこまかと追いかけては真似をするような、典型的な末っ子だったと」
「甘えん坊? 陛下が?」

 意外な証言に、アリスは驚く。今のウィルフリッドは他人を拒絶する冷徹な雰囲気を纏い、甘えん坊とは対極に見える。

「はい。王妃様は陛下をご出産された際にお亡くなりになっていることもあり、不憫に思われた前国王陛下は陛下のことをことさら可愛がっていたそうです。陛下自身も勉強している王太子殿下に強請って剣を教えてもらっては、上手くできたことを得意げに周囲に報告して褒められると嬉しそうに笑っていたと」
「へえ……」

 全く想像がつかないが、今日の昼間に見た肖像画にいた笑顔の少年からは、確かにそんな雰囲気を感じなくもない。

「あんな風に心を閉ざしてしまわれたのは、あの事件がきっかけですね」
「あの事件?」
「前国王陛下と、王太子殿下がお亡くなりになった事件です」

 エマは沈痛な面持ちで目を伏せる。

「その事件、詳しく聞かせてくれない? なぜ陛下が黒幕だなんて噂が実しやかに囁かれたの?」

 アリスは自分なりに調べたのだが、前国王が亡くなった経緯について詳しく載った資料はどこにも見当たらなかった。恐らく、閲覧制限のある部屋に保管されているのだろう。
 だから、アリスは未だに前国王と王太子が亡くなった事件について詳細を知らない。