特に、ハーレムにいるときはハーレムから出ることが許されていなかったので、旅の商人が持ってくる色々な地域の絵を眺めるのが何よりも楽しみだった。

「陛下は──」
「なんだ?」
「陛下は何が好きなのですか?」

 アリスの質問に、ウィルフリッドは虚を衝かれたかのような顔をした。

「なぜそんなことを聞く」
「知りたいからです。たとえ政略結婚であろうとも、陛下はわたくしの夫ですから。大事な人のことを知りたいと思うのは、当然ではありませんか?」

 アリスはなぜそんな質問を返されたのかがわからず、小首を傾げる。

「大切な人?」
「はい」
「きみに愛も子供も望むなと言った最低の夫が?」

 ウィルフリッドは自嘲気味に笑う。

(あら?)

 それを聞いたアリスは意外に思った。ウィルフリッド自身、最低なことだとわかっていながらあの言葉を口にしたのだろうか。

(それじゃあまるで──)

 まるで、最初からアリスから嫌われることを望んでいたかのようではないか。