確信はないが、小さな女の子と男の子の顔に、なんとなくアメリアとウィルフリッドの面影があるような気がする。男の子はこちらを見つめ、満面の笑みを浮かべていた。アリスが今まで一度も見たことがないような笑顔だ。

「陛下。これって──」
「だいぶ時間も経った。そろそろ戻るぞ」
「あ、はい」

 聞こうと思ったのに、途中で遮られてしまった。ウィルフリッドの態度に『その話題に触れるな』と言いたげな雰囲気を感じた。

 アリスは先ほど見た、家族の肖像画を思い返す。

(以前はあんな風に笑っていらしたのかしら?)

 アリスが知るウィルフリッドは表情が乏しく、どこか人と一線を引いたような周囲を拒絶する雰囲気を持つ。彼が今のように変わってしまったのは、何か理由があるのだろうか。

 聞きたいけれど、なんとなく聞きにくい。

 アリスは帰りの馬車に乗り込み、ウィルフリッドと向かい合って座る。

「陛下。今日はお忙しい中、美術館に連れてきてくださりありがとうございました」

 ウィルフリッドはアリスをちらりと見て「構わない」と言う。

「美術品が好きなのか?」
「はい。彫刻や造形品も好きですが、一番好きなのは絵です。行ったことがない町の風景を見たり、会ったこともない人の視界を見たり、面白いですもの」
「なるほどな」