美術館には馬車に揺られること十五分ほどで到着した。国立美術館の名にふさわしい重厚な造りの建物は、白亜の城のようだ。入口の左右には石を彫った彫刻が置かれている。ひとつは鎧を着た騎士、もうひとりは来訪者に語り掛けているかのように見える女性だ。

 内部は外国の美術品、システィス国の美術品がそれぞれ年代順に展示されていた。

 アリスはその一つひとつを興味深く眺める。中にはアーヴィ国出身でアリスの知っている画家の作品もあって、懐かしさを感じた。

「このあたりからはシスティス国の作家の作品なのですね」

 最後の展示室で、アリスは室内を見回す。風景画、特に雪景色が多いのは、システィス国の冬が長いことが影響しているのだろう。

「あ! もしかしてこれはロウーノの作品ではございませんか? 独特の世界観のリトグラフで多くの書籍の挿絵を手掛けた──」

 その中に見覚えのある特徴の絵を見つけ、アリスはウィルフリッドに話しかける。
 ロウーノは近年活躍しているシスティス国出身の画家で、油絵も描くが有名なのはリトグラフだ。多くの書籍で採用されており、彼が挿画を手掛けた作品は必ずベストセラーになり入手困難になる。

「よく知っているな?」
「はい。彼の絵が大好きなので──」

 そこまで言いかけたアリスは、ちょうど目に入った大きな油絵を見て足を止める。

(あら?)

 椅子に座る精悍な雰囲気の男性の横に利発そうな少年が立ち、その前に可愛らしい女の子と男の子が立っている。男性は隣に立つ少年の肩に腕を回していた。

(これって……アメリア様とウィルフリッド様?)