アリスはお飾りの王妃なのだから、デートなど行くはずがない。ただ、アメリアはそのことを知らない。

 アリスの戸惑った表情から、アメリアはすぐに今の状況──未だに距離感の遠い夫婦であることを悟ったようだ。スッと目を据わらせる。

「まだデートのひとつも誘わないなんて、信じられないわ。何やっているのかしら、あの子!」
「あの」
「こんなに可愛らしいのだから、おちおちしていると愛想を尽かされてしまうってわかってないのかしら! ああ、本当にもう!」
「アメリア様?」

 ぶつぶつと独り言を言い出したアメリアに、アリスは困惑気味に話しかける。

「アリス様。あの愚弟の気が利かないばっかりに、申し訳ないわ。わたくしがしっかり言い聞かせておきますから、安心なさって!」

 アメリアは片手を胸に当て、声高々に宣言したのだった──。




「──なるほど。それで、この手紙というわけか」
「申し訳ありません……」
「いや、いい。アリスが悪いわけではない」

 はあっと息を吐くウィルフリッドを、アリスは恐縮しつつ見る。