この日、アリスはウィルフリッドの姉であるアメリアに招かれて、バリー公爵家を訪問していた。
 バリー公爵家は百年ほど前に王家から分かれた公爵家だ。初代当主はウィルフリッドとアメリアの曾祖父の弟で、元々は離宮だった建物を今は屋敷として使っている。

「アリス様! よくいらしてくださいましたね」

 朗らかな笑顔を浮かべてアリスを出迎えたのは、バリー公爵夫人であるアメリアだ。

「はい。ご招待ありがとうございます」

 アリスはアメリアに向かって、丁寧にお辞儀をする。

「あら、そんなにかしこまらなくっていいのよ。さあさあ、奥に案内するわ。アリス様とお茶をするのが楽しみで、新しいティーセットを揃えたのよ」

 アメリアはご機嫌な様子で屋敷の奥へと案内する。
 通された部屋は、大きな暖炉の付いた客間だった。テーブルには焼き菓子からフルーツまで様々なスイーツが並べられ、花が飾られている。それだけで、アメリアがこのお茶会の準備に心を砕いてくれたことがよくわかる。

「アリス様、夫から噂を聞きましたよ。なんでも、ローラン国の王族との伝手を使って水道の技術提供の約束を取り付けたとか。すごいわ」

 紅茶が振る舞われてすぐ、アメリアが話題を振る。

「ええ、そうなのです。ローラン国の地下水道の技術を我が国にも導入できないかと思って。ウィルフリッド様にご相談したら、話がスムーズに進むようにお力添えくださいました」
「まあ、ウィルが」

 アメリアは嬉しそうに相槌を打つ。アメリアは公式の場ではウィルフリッドを『陛下』と呼ぶが、プライベートの砕けたときは愛称の『ウィル』と呼ぶのだ。

「ところで、最近ふたりはどうなの? どこかにデートには行ったの?」
「え?」

 にこにこしながら尋ねられ、アリスは言葉に詰まる。