ソファーに座らせると、彼女の両耳を塞ぐように抱き寄せる。アリスは抵抗することなく、ウィルフリッドにぴったりと寄り添う。本当に、よっぽど雷が怖いようだ。

「なぜ雷が苦手なんだ?」
「小さなとき、目の前で雷が落ちるのを見て……。物置小屋があっという間に火に包まれて、本当に怖かったんです」
「そうか……」

 小さく震える姿が、まるで小動物のようだ。
 ウィルフリッドはアリスを安心させるように、ぽんぽんと背中を叩いてやる。すると安心したせいが、しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。

「寝てる?」

 屈託のない寝顔を見ると、アリスがこの国にやってきた初夜のことを思い出す。
 あの日は、自分でも随分と酷いことを言ったという自覚はある。

(きみはなぜ、自ら進んでこの国に尽くそうとするんだ?)

 国の利益になると思って、政略結婚を申し込んだのはウィルフリッドのほうだ。しかし、アリスがこんなにも色々なことに自主的に取り組んでくれるとは思っていなかった。
 結婚に対する風除けに、人前に出しても恥ずかしくない程度のお飾りの妃がいればそれでいいと思っていたのだ。

 それに、ウィルフリッドが結婚式の日の夜にアリスに告げたことは、彼女が怒っても仕方がないような、ひどいことだ。

(アリスには一切非がないのにな)

 ウィルフリッドは自身がこの国の国王の座に就いた経緯を未だに受け入れられずにいる。自分は誰かと愛し合って幸せになっていい存在ではないと思っていた。それに、無関係のアリスを巻き込んだのだ。
 しかし、アリスは一切怒ることなく、むしろ積極的にウィルフリッドに笑顔で接し、色々な提案をしてくれる。

(今日はどんなことを話してくれるだろうか)

 そんなことを思ってアリスと話すのが楽しみになったのはいつからだろうか。