「それは興味深い話だ。だが、地下に水路など作ったら地上で陥没が起きて今とは違う不便が発生する可能性がある。実現にはしっかりとした検討と、十分な知見と技術を持った者の指導が必要だ。ローラン国はそうやすやすと、技術者を他国にやらないだろう」
「確かにそうですね」

 アリスは考えるように口元に手を当てると、しばらく黙り込む。

「では、ローラン国にも相応のメリットがあるとちらつかせ、話を持っていくのはいかがでしょう?」
「相応のメリット?」
「はい。我が国にはあってかの国にはないものがあります」

 アリスはウィルフリッドを見つめると、自信ありげに口の端を上げた。

「我が国にあってかの国にないものとは?」

 ウィルフリッドは興味を覚えたようで、アリスに尋ねる。

「農業技術です」

 システィス国は寒冷地域に位置するため、野菜が収穫できる時期が限られている。そのため、寒さの中でも野菜を育てるための様々な技術が開発されていた。

 一方、ローラン国は野菜を雪の下に保存して少しずつ使っているという。雪の下に保存した野菜も悪くはないのだが、これまで農業が難しかった時期にも栽培できる技術が入れば少なからず国の豊かさに影響を与えるはずだ。

「水路技術と、農業技術か。なかなか面白い」

 ウィルフリッドが前向きな返事をしたので、アリスはパッと表情を明るくする。

「では、早速ローラン国に手紙を書きます。かの国の王女は、わたくしの親友なのです」

 アリスは役に立てることが嬉しくて、花が咲いたような笑顔を浮かべた。