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 アリスがウィルフリッドを訪ねてきたのは、午後の会議が終わってちょうど執務室に戻ったタイミングだった。
 会議資料を読み返していると、トントントンとドアをノックする音が聞こえた。

「何だ?」
「陛下。お妃様がお越しです」
「なんだと?」

 執務室の入り口を守る衛兵からアリスの来訪を知らされ、ウィルフリッドは訝しく思った。アリスが日中ウィルフリッドの執務室を訪ねてくることなど、滅多になかったから。

「ごきげんよう、陛下」

 衛兵の後ろからちょこんと顔を出したのは、アリスだ。体が小さいせいで体格のよい衛兵に完全に隠れている。

「ご相談があって少しだけお時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「相談?」

 ウィルフリッドは聞き返す。

「はい。もしご都合が悪いようでしたら、夜でも構いません」
「いや。今聞こう」

 アリスがわざわざ訪ねてきたからにはきっと重要な用事なのだろうと判断したウィルフリッドは、執務室に置かれたソファーに座るよう彼女に勧める。アリスは素直にそこに座った。