唯一よかったのは、あまりにもアリスがクリスに相手にされないので、ハーレム中の妃たちから『この子は敵にならない』と判断され、虐められるどころか可愛がってもらえたことだろう。

 そしてルシアは現在に至るまでクリスの寵愛を一身に浴び、絶対的寵妃の座を揺るぎないものにしている。対するアリスは七年間で夫の顔を見たのは数回程度。全て宴席の場で遠目に見ただけである。

 同情した他の妃が強力な催淫剤だと言って瓶に入った媚薬を分けてくれたが、そもそも渡りがないのに使いようがない。そんなこんなで、アリスは最底辺の妃としての地位をいつの間にか固めていた。

 ハーレムの妃に配られる給金は、どれだけ主の寵愛を受けているかで変わってくる。世知辛いことに、アリスの給金は雀の涙だった。もしかしたら、女官のほうが多いかもしれない。

 だから、アリスはみんなに可愛がられていることをいいことに、色んな妃の元を訪れては侍女のように働き、小遣いを稼いでいた。涙なしには語れない、ということもなくそれなりに楽しかったのでそれ自体は別に構わないが、想像していた結婚生活と全く違っていたのは否めない。

(結婚生活か……)

 ふと、先日読んだ人気作家の書いたという恋愛小説の内容を思い出す。

 ──身を焦がすような恋に翻弄される二人は、最終的には数々の苦難を乗り越えて結婚し、心身ともに結ばれる。その後、可愛い子宝にも恵まれて、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました──。