仮初の夫婦であろうと、アリスはウィルフリッドと良好な関係を築きたいと思っている。だから、ウィルフリッドが何をしているのか、興味があったのだ。

　ロジャーはわかりやすくにやにやした顔でウィルフリッドを見るが、彼は迷惑そうに眉間にしわを寄せるだけだ。ただ、出て行けとは言われないのでここにいてもいいのだろうとアリスは勝手に判断した。

「何をなさっているのですか？」

　アリスはウィルフリッドに一歩近づき、尋ねる。ウィルフリッドはちらりとアリスのほうを見た。

「見ての通り、訓練の視察だ」

　低い声で、答える。

「すごい迫力ですね」
「我が国が誇る精鋭たちだ」

　ウィルフリッドが彼らを見つめる眼差しは、どこか誇らしげなものだ。その眼差しから、彼がこの騎士達に強い信頼を置いていることがわかった。

　会話が途絶える。気を遣ったロジャーが今度はアリスに質問してきた。

「アリス妃は一体何をしていたんですか？」
「わたくしは、ノートン卿のところに資料を借りに行ってきました」
「資料？」
「はい。先日の議会の資料と議事録です」