アリスは書類を受け取りながら、笑顔で答える。
 ウィルフリッドからアリスに求められているのは、王妃として役に立つこと。だから、可能な限り期待に応えたいと思っている。

「では、こちらは借りていくわ」

 アリスは片手で書類を持ち上げると、ヴィクターの部屋をあとにした。
 部屋に戻る道中、開放廊下から見える訓練場で騎士達が訓練しているのが見えた。その傍らに、見覚えのある後姿を見つけてアリスは足を止める。

「陛下!」

 大きな声で叫ぶと、ウィルフリッドはびっくりした様子でくるりと振り返る。アリスは書類を胸に抱え、ウィルフリッドの元へ駆け寄った。ウィルフリッドはアリスを見て、不機嫌そうに眉根を寄せるとふいっとそっぽを向く。

(あら。そっぽ向かれちゃった)

 ウィルフリッドはあからさまにアリスに何かを言ったり行動の制限をしたりはしないが、一歩彼の懐に踏み込もうとすると途端に拒絶するような態度を見せる。

 代わりに「あれ?」と声をあげて近づいてきたのは、側近のロジャーだった。

「アリス妃、一体どうなされました?」
「陛下のお姿が見えたので、何をしているのかと思いまして」
「へえ。陛下の姿が見えたからここに?」
「はい。そうです」

 アリスは笑顔で頷く。