(こんな素敵な環境を整えてくださるなんて……。陛下には深く感謝しないと!)

 衣食住も揃っていれば、行動を制限されることもない。まさに理想的な環境だ。

(これは、なんとしてもしっかりと王妃の役を務め上げて恩返しをしないと)

 そのためにはまず国の状況をしっかりと把握する必要がある。
 目的の部屋──ヴィクターの執務室に到着すると、アリスに気づいた衛兵がすぐに中に来訪を知らせに行った。程なくして、ドアが開かれる。

「ごきげんよう、ノートン卿。今少しいいかしら?」
「これは王妃様。いかがなされました?」

 ヴィクターはすっくと立ちあがると、アリスのほうに歩み寄る。

「先日お借りした医療福祉についての資料、とても勉強になりました。今日は、最新の議会の資料と議事録を確認させていただきたくって」
「かしこまりました」

 ヴィクターは執務室の一角に設置された本棚に歩み寄ると、そこからひと綴りの書類を取り出す。

「こちらでございます。……それにしても、王妃様は勉強熱心ですね」
「はい。早くお役に立ちたくって」
「……そんなに無理に頑張らなくともいいのですよ?」
「あら、無理なんかしていないわ。わたくしがやりたいからしているの」