アリスがシスティス国に来て一カ月が過ぎた。

 ここに来てからの生活はとても穏やかで、周囲の多くの人々が歓迎してくれているのが彼らの態度からわかる。

 ウィルフリッドとは白い結婚で表面的な仮面夫婦だけれども、そのことについては初日にしっかりと説明されているので文句を言うつもりもない。つまり、ここでの生活はとても快適なものだった。



 この日、アリスはシスティス国の現在の施策について理解を深めようと、宰相のヴィクターの元へ向かっていた。

「おはようございます、王妃様」
「おはよう」
「王妃様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」

 廊下を歩いていると、王宮内のメイドや騎士、文官たちが立ち止まり、アリスに頭を下げる。きっちりと挨拶をする彼らに笑顔で返事しながら、アリスは内心で感動していた。

(わたくし、ちゃんと王妃様として扱われているわ!)

 臣下が王妃に挨拶をするなど基本中の基本で当たり前のことだが、なにせ一度目の結婚で最下級の妃だったアリスは侍女同然の生活を送っており、女官たちにもないがしろにされる存在だった。こんな風に大切に扱ってもらったことなどなかったので、感動もひとしおだ。