それに、一度目の結婚もアーヴィ国とビクリス国の関係強化のための政略結婚だった。アリス以外の多くの妃たちも、祖国の国益になるために嫁がされてきた女性だった。

「この結婚で、愛は望むな。子供も望むな。それ以外のものは、可能な限り融通するように善処しよう」

 感情の籠らない冷ややかな視線を向けられ、アリスは胃の辺りがぎゅっとなるのを感じた。

「きみには申し訳ないことをしたと思っている。だが、謝罪するつもりはない」

 淡々と語られるその言葉に、どこか他人事のように耳を傾ける。

(きっと、ウィルフリッド様は誠実なお方なのね)

 王族にとって政治的利用価値を求めて結婚することなど、よくある話だ。だがそれでも、夫が自分を愛してくれると信じ、裏切られ、絶望する王女は多い。

 そんな中、ウィルフリッドは愛も子供も望むなと最初にはっきりアリスに宣言した。『きみに一目ぼれした』などと作り話をされるよりもよっぽど気持ちがいい。

 つまり、彼がアリスに求めているのは政治的価値の発揮だ。世継ぎはそのうち愛人にでも産ませて養子にするつもりなのかもしれない。

 愛より国益を優先させるウィルフリッドの判断は、国王としては正しいものだ。国として有益ならば、ひとりの女性の人生を踏み台にするくらいの冷徹さがなければ、国王など務まらない。