「嫁いできたときは、まさかクリス殿下が年上好きだなんて想像すらしていなかったわ」

 アリスはふうっと息を吐く。

「年上っていうか、多分熟女好きだわ。この前、皇后陛下より年上の女官に言い寄っているのを見かけたもの」

 ケイトが訂正する。

「もしケイト様が真実を教えてくださらなかったら、わたくしショックすぎて寝込んでいたわ」
「ふふっ。ハーレムの皆様ったらアリス様のことを見た瞬間、ホッとしていたわ。だって、アリス様ってばただでさえ若いのに童顔で、まるで小動物みたいに可愛らしいんですもの」

 ケイトはアリスが嫁いできたときのことを思い出したのか、くすくすと笑う。

 そう、ハーレムでの生活は、アリスが想像していたものとは全く違っていた。なぜなら、アリスの夫であるこのハーレムの主──クリスは大の年上女性好きだったのだ!

 なんでも、最低でも十歳以上年上でないと興味すら湧かないらしい。つまり、元々童顔で背も小さい上に八つ年下のアリスは、彼の好みの対極にいた。

 初夜に寝所にすら現れず、一切自分に興味を示さないクリスの態度にアリスは少なからずショックを受けた。女官に聞いてみると、彼は一番のお気に入りの妃、ルシア──彼女はアリスの二十五歳年上のこのハーレムで最年長の妃で、当時既に四十歳だった──の元に足しげく通っているという。