あり得ないことに、全く記憶がない。アリスにとって、正真正銘初めての夜なのに!

 しかし、今朝の密着度や服のはだけ方を考えればそういうことがあったとしても不思議ではない。そして、ウィルフリッドとアリスは夫婦なのだから、ごく自然な行為である。

「もしかして、覚えていないのか?」
「まさか! 覚えております。しっかりと覚えております」
「本当に?」

 本当は一切覚えていないが、覚えていませんなどと言えるはずがない。
 ウィルフリッドがスッと目を眇める。

「本当に、印象深い夜だった」
「ええっと……」

 アリスは言葉に詰まる。どんなふうに印象深かったのか、皆目見当もつかない。

「抱き枕にされたのは、人生で初めてだ」
「抱き……枕……?」

 抱き枕……。確かに昨晩は、とても抱き心地のいい抱き枕があったような気がする。
 アリスはチラッとベッドの上に視線を走らせる。

(ないわ)

 アリスの真横にあったはずのぬくぬくの抱き枕がどこにもない。ということは──。