寝室に到着したウィルフリッドは、そっとドアを開ける。室内は薄暗く、シーンと静まり返っていた。
「アリス?」
ウィルフリッドは室内に向かって、新妻の名を呼びかける。しかし、返事はない。
(まさか、いない? 俺の噂を聞いて、逃げ出したか?)
新婚初夜に花嫁が失踪、といういやな想像が頭をよぎる。自らいなくなったのか、誰かに連れ去られたのか、どちらにしても一大事であることに変わりはない。
「どこだ?」
周囲を見回して、ベッドの上に影を見つけた。
ウィルフリッドはゆっくりと歩み寄る。
「寝ているのか?」
アリスはベッドの端で小さく丸まり、すやすやと眠っていた。
ふとベッドサイドに置かれたローテーブルを見ると、メイドによって用意された蒸留酒がコップに注がれていた。瓶を見ると、半分位なくなっている。
「まさか、これをひとりで飲んだのか?」
この酒はやや特殊なもので、アルコール度数はかなり高い。体の小さい女性がこれだけ飲めば、かなり酔いが回るはずだ。