披露宴が終わったあと、ウィルフリッドは私室ではなく自分の執務室に向かった。緊急の仕事など何もないが、寝室に行くのは気が進まないのだ。

 仕事の書類を確認しながら、はあっとため息を吐く。

(きっと、怒るだろうな。もしかすると、泣かれるかもしれない)

 これからアリスに話さなければならないことを考え、ウィルフリッドの気持ちは重くなる。
 しかし、今日の彼女を見る限り終始にこにこしていて純粋そうに見えるからこそ、余計に彼女とは距離をおいたほうがいいと思った。

「陛下。そろそろ行かれてはどうですか?」
「ああ、この資料を読み終えたら行く」
「でもその資料、さっきも読んでいましたよね?」

 鋭い指摘を受け、ウィルフリッドはうっと言葉に詰まる。
 じとっとした目でこちらを見ているのは短い黒髪を無造作に下ろした長身の男──側近のロジャー・ポーターだ。

 彼は古くから王家に仕えるポーター侯爵家の子息で、文武両道の優秀な側近だった。ときおり辛口になるのが玉に瑕だが。

「初日にほったらかしはまずいでしょう。王妃様が陛下にないがしろにされていると周囲に受け取られ、立場が悪くなる可能性があります」
「彼女をないがしろにするつもりなどない」

 ウィルフリッドはキッとロジャーを睨み付ける。