(彼女は何者だ?)

 彼女自身に興味持ったちょうどそのとき、女と話していた賓客が『アリス様はどこの国のご出身なのですか?』と尋ねるのが聞こえた。

『アーヴィ国です。クリス様に嫁いで、もう四年になります』

 女はにこにこしながら答える。それで意図せず、女がアーヴィ国出身の王太子妃──アリスであることを知った。

(ビクルス国の妃たちはこんなにレベルが高いのか?)

 驚いたウィルフリッドはたまたま近くに座っていた別の妃に声を掛けた。しかし、その妃は他国のことはおろか嫁ぎ先のビクルス国のことすらろくに勉強していないようで、その差にがっかりした。

 そして二年が経過し、ウィルフリッドは未だに結婚していなかった。

『陛下。今日もこんなにたくさんの釣書がきましたよ。もう、一番好みの女で手を打ちましょう』

 ロジャーはうんざりした様子で見合いの提案を持ってくる。その数は日に日に増えており結婚を渋るのもそろそろ限界であることはわかっていた。
 だが、自分の過去を思い返し、どうしても結婚する気になれなかったのだ。

 ウィルフリッドがアリスについて思い出したのはそんなときだった。ビクルス国の王太子──クリスが失脚しハーレムを解散、妃は全員祖国に戻されたという情報が入ってきたのだ。

 ウィルフリッドは少し逡巡してから、ロジャーに告げる。『結婚を申し込みたい王女がいる』と。

 出戻り王女であるアリスは、恐らくもう良縁を望めないだろう。しかし、ウィルフリッドは博識な彼女は王妃にするにはちょうどいいと思った。
 それに、どの国内貴族とも縁がないのもしがらみがなく都合がいい。

 一部の臣下は、アリスには子供を産めない疑いがあるとして、大反対した。
 だが、ウィルフリッドはそれらの意見を全て一蹴し、宰相のロジャーもウィルフリッドの意思を尊重すべきだと彼を支持してくれた。