アリスがここビクルス国の王太子──クリスに四十一番目の妃として嫁いだのは今から七年前、まだ十五歳のときだった。ちなみにその後も妃は増え、今現在クリスには全部で四十三人の妃がいる。

 クリスはアリスの八歳年上で、当時はまだ二十三歳だった。さして珍しくもない茶髪、茶眼で、身長も平均位。目を瞠るような美男子でも、一騎当千の英雄でもないけれど、ややふっくらした顔立ちで温厚そうな青年に見えた。

 恋愛小説のような身を焦がすような大恋愛に憧れがないと言えば嘘になるが、王女の政略結婚などこんなものだろう。アリスは、まず夫となる男性が温厚そうであることに心底安心した。

(よかったわ)

 ハーレムの中ではきっと、王太子の寵を競う血みどろの戦いが繰り広げられているに違いない。ただでさえストレスフルな場所だろうに、肝心の夫まで気難しい男ではやってられない。

(やっぱり新入りは虐められるのかしら?)

 もしかしたら、嫌がらせをされるかもしれないし、ひょっとすると毒を盛られるかもしれない。アリスが読んだことのある小説によると、ハーレムとは魑魅魍魎が跋扈する恐ろしい場所なのだ。

(負けないように、頑張らないと!)

 来たる女の戦いに備え、アリスは覚悟を決めたのだが──。