『大丈夫ですか?』

 少し離れた席から女の声が聞こえてそちらを見ると、小柄で可愛らしい雰囲気の若い女が横に座っている貴婦人に声を掛けていた。
 貴婦人は四十過ぎぐらいに見え、衣装から判断するに賓客だ。対する若い女性は、ビクルス国の伝統衣装を着ていた。蜂蜜色の艶やかな髪に髪飾りを着け、年齢はまだ十代に見えた。

『これ、すごく固いのよ』

 貴婦人は、慣れない異国の料理に戸惑っているように見えた。

『海のない国では海産物は見慣れないですよね。これは、殻の中だけを食べるのですが──』

 若い女はビクルス語ではない言葉を流ちょうに操りコミュニケーションをとると、周囲を見回す。そして、一番近くにいたメイドに料理の殻を外して食べやすくすることと、ふかした芋を持ってくるように伝えていた。

(なんでふかした芋なんだ?)

 そんなウィルフリッドの疑問はすぐに解決する。どうやら、貴婦人の祖国の主食がふかした芋で、おかずと芋を一緒に食べる風習があったようだ。
 貴婦人は大層感激して感謝の言葉を伝えていたが、女は照れくさそうに『気になさらないでください』と笑っていた。
 なんとなく彼女が気になり、そのあともちらちらと見る。彼女は別の来賓と別の言語を使って楽しげに話し、相手の国について熱心に質問していた。

(随分と、他国に対する知見があるのだな)

 彼女は少なくとも、ビクルス国以外に二か国語を流ちょうに話し、諸外国の風習や文化についてもよく知っているように見えた。事前に勉強したのかもしれないが、それでも大したものだ。