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今日の日中のこと。ウィルフリッドは浮かない表情で、新郎の控室にいた。
大きな鏡には銀色の髪を丁寧にセットされ、すっきりと顔が見えている。だが、その表情はおおよそ今日結婚式を迎える新郎の表情ではない。
結婚など、一生するつもりはなかった。
だが、王妃が空席になっていることで王妃選びを勧める、もっと言うと自分の縁者を王妃に推薦する貴族たちがあとを絶たず、政権運営に悪影響が出てきたので娶らざるを得なかったのだ。
「陛下。そろそろ時間です。王妃様は神官が呼びに行きました」
「ああ、わかった」
ウィルフリッドは呼びに来た側近──ロジャーに返事すると目を閉じる。そのまま息を吐き、目を開けるとすっくと立ちあがった。
(行くか)
ウィルフリッドがアーヴィ国に対し、王女を妃に娶りたいと打診したのは約半年前のこと。ビクルス国のハーレムが解散され、各国の王女が祖国に戻ったという情報を得たすぐあとだった。
ウィルフリッドの決定に臣下達は驚き、出戻り王女など娶るべきではないと反対する者も多かった。しかし、それを押し切ったのは他でもないウィルフリッド自身だ。
ウィルフリッドがアリスを見かけたのは、三年ほど前のことだ。
たった一度だけ、それも、直接言葉を交わしたわけでもない女性。そんなアリスをウィルフリッドがよく覚えていたのには、理由がある。
──それは、ビクルス国のパーティーに招かれたときのこと。