「ウィルフリッド様か……」

 アリスはシスティス国へ嫁ぐことが決まってから、可能な限りシスティス国とウィルフリッドについて勉強した。

 ──国王だった父と王太子だった実の兄を殺害し国王の座を手に入れた、冷徹な王。

 若き国王である彼にはそんな黒い噂が実しやかに囁かれているようだ。

 国王に即位した十三年前、ウィルフリッドは弱冠十二歳だったという。まだ子供だったウィルフリッドを補佐して国が正常に回るのを手助けしたのは、彼の叔父──ヴィクター・ノートンだ。そのヴィクターは今も宰相としてこの国に絶大な影響力を持っているとも、読んだ資料には書かれていた。

「ヴィクター様って今日挨拶したわね。それにしても、まさか陛下の叔母上がルシア様の妹君だなんて」

 人の縁とは、どこで繋がっているのかわからないものだ。

「陛下、遅いな……」

 アリスは日中のウィルフリッドの様子を思い返す。
 冷徹王などと呼ばれていたからどんな暴君かと覚悟していたが、今のところは普通の青年に見えた。ただ、どこか孤独を思わせる寂しげな瞳をしているのが気になる。

 時計を見ると、そろそろ日付が変わる時刻だ。結婚を祝う臣下たちと話しているにしても、さすがに遅すぎる。

(まさか、今回も初夜にほったらかし?)

 今日のウィルフリッドの様子を見る限り、嫌われてはいないと思っていたのだが。

(もしかして、陛下もわたくしが好みと外れているのかしら)