一方のエマは、アリスが彼女に不満を持っているわけではないとわかったようで、ほっとした様子だ。

「それでは、本日からお仕えさせていただきますね。何かあれば、なんなりとお申し付けくださいませ。早速、夜のお支度のお手伝いさせていただきます」

 エマはにこっと微笑むと、外に控えていた屋敷のメイド達に言って温かいお湯を湯船に張らせる。結い上げられたアリスの髪をその間に解くと、てきぱきとドレスを脱がせてゆく。
 湯が溜まったら風呂で入念に体を清められ、香油をしっかりと肌に塗られた。

「アリス様。こちらをお召しになってください」

 着せられたのは、シルクで作られた寝間着だった。
 腰ひもを兼ねたリボンを外せばすぐに脱げるような構造になっており、寝間着というにはやや心もとない。しかし、触り心地はなめらかで、上質なものであることはすぐにわかった。

 アリスは言われたとおりにその寝間着を着る。そして、エマに案内されて内扉続きの隣の部屋──寝室へと移動させられた。

「こちらが国王陛下ご夫妻の寝室でございます」

 エマがアリスに説明する。
 広い部屋の中央には天蓋付きの大きなベッドがあった。ベッドのわきにはちょっとしたソファーセットとローテーブルが置かれ、その上にはピッチャーとグラス、それにちょっとしたおつまみもあった。

 照明は少し暗くされており、それが余計にこれからこの部屋で行われることに対する緊張を呼び起こす。

「それでは、私たちはここで失礼いたします」