「なるほど。確かに陛下は数年前、ビクルス国に行かれていましたな。では、陛下が長らく結婚を渋っておられたのはアリス様のことを思って?」

「無粋なことを聞くな。想像に任せるとしよう」

 ウィルフリッドはどこか冷たさのある笑みを浮かべる。その態度は、これ以上この話題に触れることは許さないと言いたげに見えた。

「これは失礼いたしました」

 ヴィクターはウィルフリッドの意図に気づいたようで、話を終わらせる。

「では、私はここで」
「ああ。楽しんでいってくれ」

 ウィルフリッドはノートン夫妻の後姿を見送る。彼らの背中が雑踏に消えたのを見届けてから、アリスはチラッとウィルフリッドのほうを見た。

「陛下、ありがとうございます。その……助けてくださって」
「構わない。私が急にこの結婚を決めたから、色々と気になるようだ」
「そうなのですね。あの……どうして──」

 どうしてウィルフリッドはアリスに求婚したのか。恐らく先ほどの一目ぼれというのは、その場の作り話だ。
 アリス自身もずっと不思議に思っていたので本当の理由を聞こうとしたが、それは次に祝辞を述べようと近づいてきた来賓によって遮られた。

「おめでとうございます」
「ありがとう」
「このような美しい方がいらしてくださり、喜ばしい限りです」
「ありがとう」

 アリスはそのあとも、永遠に続くのではなないかという来賓からの祝辞に追われたのだった。