それはまさに青天の霹靂だった。

【重大発表あり。全ての妃は本日十五時に大広間に集まるように】

 ハーレムにいる四十三人の妃達にこんな通達が出たのは、アリスが二十二歳──ここビクリス国の王太子専用ハーレムに入ってから実に七年も経過したある日だった。

「全ての妃が? 珍しいわね。どんな発表?」

 七年間もハーレムに住んでいるが、妃が一堂に集められたことなど、パーティー位しか記憶にない。不思議に思ったアリスは言付けに来た女官に尋ねる。

「内容までは存じ上げません。必ずいらっしゃるようにとのことです。それでは失礼いたします」

 女官は事務的な態度でぺこりと頭を下げると、立ち去って行った。
 アリスはその後ろ姿を見送ってから、くるりと振り返って自室の奥を見る。

「ケイト様、どう思う? 通達を出されたのはクリス殿下かしら?」

 アリスはたまたま自室に遊びに来ていた仲良しの妃──ケイトに話しかける。ケイトはゆるいくせのある髪の毛をかき上げ、背もたれに寄りかかった。

「きっとそうだと思うけど……何かしらね? ルシア様か誰かがご懐妊でもなさったかしら?」
「ああ、なるほど! きっとそうだわ。クリス殿下はルシア様がお気に入りですものね。今度こそ男の子かしら?」
「お気に入りっていうか、ルシア様しか興味がないわよね。お世継ぎがなかなか生まれないって大臣たちがやきもきしていたから、男の子だったら一安心ね」
「つまり、わたくしたちはますます用なしってことね?」
「そうね。いっそのこと、ルシア様以外は全員ハーレムから解放してくれたらいいのに」

 ケイトはつまらなそうに言う。

「あははっ。本当にね」

 その意見には完全に同意する。アリスはなんだかおかしくなって、声を出して笑った。