(わあ、素敵)

 アリスは大きな目を瞬かせ、どこか不思議な気分で鏡に映る自分の姿を見た。
 蜂蜜色の髪は美しく結われ、白い花が飾られている。胸元を飾るのは精緻なレース飾り、そして、腰から足元に向かって大きく広がるドレスは純白で、ところどころに花の飾りと真珠が縫い付けられている。

(まさか、またウエディングドレスを着ることになるなんて)

 王女として生まれた以上、結婚は一生に一度きりだと思っていた。それが、まだ二十二歳なのに二回目の結婚式を迎えようとしている。

「アリス殿下、そろそろお時間です」
「ええ、わかったわ」

 神官に呼ばれ、アリスは立ち上がる。

(確か、〝冷徹王〟だったかしら?)

 随分と物騒な呼び名だが、それがアリスがこれから嫁ぐ男──システィス国王であるウィルフリッド・ハーストの別名なのだ。

 アリスがアーヴィ国で調べた限りだと、自分が王座に就くために父親と兄を殺したと噂されていることや、彼が水や氷を操る異能を持っていることがそう呼ばれるようになった理由のようだ。

(まあ、自分からわたくしとの結婚をお望みになったのだから、来て早々殺されることもないでしょう)

 全く怖くないかと言えば嘘になるが、アリスは曲がりなりにもアーヴィ国の王女だ。両国の友好の印として嫁いできた嫁を切り殺すほど、ウィルフレッドは愚かではないだろう。

 神官に案内されながら、大聖堂の講堂へと向かう。エスコート役の父──アーヴィ国王と並んで講堂の入口に立つと、ゆっくりとその扉が開け放たれた。

(わあ、素敵!)

 たしか、ステンドグラスというのではなかっただろうか。幾何学模様に嵌め込まれた色とりどりのガラスは陽の光を浴び、聖堂の内部を幻想的に照らし出していた。