「アリス、本当にいいの? ウィルフリッド陛下には気になる噂もあるわ」
心配そうな顔をして口を挟んだのは、アリスの母である王妃だ。
「気になる噂?」
「ウィルフリッド陛下が国王と王太子を殺し、王座を手に入れたという噂よ」
王妃は胸元でぎゅっと手を握り、アリスを見る。考え直したほうがいいと目で訴えている。
(国王と王太子を殺し──)
それはまた随分と物騒な噂だ。両親がアリスを心配するのも頷ける。
しかし──。
「構いません。気になる噂があるのはわたくしも同じです」
アリスは首を横に振る。
アリスの〝気になる噂〟は子供を産むことができないのではないかという噂だ。
王族に嫁ぐ女性が子供を産めないということは、即ち世継ぎを作れないということだ。
そもそも子作りをしていないのだからできるはずがないのだが、真実を知らないくせに好き勝手な憶測をまるで真実のように言う人は少なからずいるものだ。だからアリスは、ウィルフリッドの悪い噂も本当か疑わしいと思った。