「あの……国王陛下がわたくしを妃などに迎えてよろしいのでしょうか? システィス国に後宮はなかったかと思うのですが」

 アリスは国王に問いかける。
 真実はともかく、アリスは周囲から〝子供が生せない〟という疑惑を持たれている。国王など、どんな貴族よりも後継ぎが熱望される存在のはずだ。

 王族同士の政略結婚では、申し込み前に相手についての調査が行われる。ウィルフリッドは、アリスが七年間ハーレムに入っていたことや、その間に子供ができなかったことを把握しているはずだ。

「それが、先方が是が非ともとお前を熱望されている」
「わたくしを熱望……」

 一体なぜ?と思わざるを得ない。アリスは可愛らしいと言われる見た目をしているが絶世の美女ではないし、アーヴィ国が他国に比べて膨大な資源を持っているということもない。つまり、熱望される理由がないのだ。

 うーんと悩むアリスを見て、両親は顔を見合わせる。彼らも、なぜウィルフリッドがアリスを妻に望むのか、皆目見当がつかないのだろう。

「もしもお前が嫌なら、なんとか断ることもできる」

 父は心配そうな目で、アリスを見下ろす。

「断る?」

 システィス国は強大な軍事力を持ち資源も多い国なので、国際的な影響力が強い。断って関係が悪化したら。アーヴィ国にとってはかなりの痛手だろう。断るという選択肢は、極力避けたいはずだ。

「いいえ。わたくし、システィス国に参ります」

 アリスははっきりとそう言った。ビクリス国に嫁いだもののハーレム解散して実家に帰されるという前代未聞のことでただでさえ両親には迷惑を掛けた。これ以上、自分が原因で迷惑をかけたくはない。