項垂れて寂しげに呟くウィルフリッドの姿に、胸が押し潰されるような思いだった。
 一方で、ヴィクターが逮捕されたことから言い逃れは無理だと観念したノートン公爵家の使用人達は次から次へと証言をしてくれた。

 酒に酔ったヴィクターは『国王の座を必ず手に入れる』とよく漏らしていたこと、イリスは息子のことを〝未来の国王陛下〟として接するように使用人達に指示していたこと、そして、前国王と王太子が亡くなった日ヴィクターとイリスが祝杯をあげていたという証言もあった。

 ヴィクターは元々、ウィルフリッドのことも国王と王太子と共に殺して自分が国王になるつもりだった。しかし、ウィルフリッドが自分の異能の力を使って生き延びてしまったので計画が崩れた。

 新国王となった幼いウィルフリッドを殺すこともできたが、後見人としてほぼ国王と同等の権力を手にしたので、下手に動いて自身に疑惑が向くのを防ぐためにしばらくは忠臣を演じることにした。
 しばらくはそれでうまく事が運んでいたが、どんなに幼い子供もときが経てば大人になる。段々と成長したウィルフリッドはやがて自分の意志をもって政権を運営するようになった。さらに都合が悪いことに、文武両道で警戒心が強く、全く隙がない。

 なんとかしてウィルフリッドを殺す機会を窺っていたヴィクターにチャンスが到来した。ウィルフリッドが、異国の出戻り王女と結婚したいと言い出したのだ。
 相手の王女──アリスは子供をなせない体であるという噂があり、ヴィクターにとっては都合が良かった。子供ができなければ、いずれウィルフリッドが死んだときの王位継承者は彼になるからだ。

 さらに、アリスは雪国の知識がほとんどなく、彼女に起因した事故死とすればウィルフリッドが巻き込まれたとしても不審に思われない。

 国王殺しは殺人罪の中でも最も重罪とされる。おそらく、ヴィクターは死刑を免れないだろう。

「アリス様。お医者様がいらっしゃいましたよ」

 エマがアリスに呼びかける。